2008年度は,総務省SCOPEプロジェクトとして取り組んでいる,室内を映像投影環境とするための研究を中心に行った.凸面鏡や平面今日を使った簡易な広視野投影システムや輝度補正手法の提案,そして既存映像コンテンツを活用して広視野映像を得る疑似広視野化アルゴリズムを発展させた.

凸面鏡を使った広域映像投影システム
平面鏡を使った広域映像投影システム
疑似広視野化手法の多用な映像コンテンツへの対応
疑似広視野化による没入感への影響の評価
動画像の知覚特性に基づいた輝度補正手法


2007年度以前の研究成果一覧

電通大以外での研究活動.(佐藤研@東工大中嶋研@東工大


広視野映像は,バーチャルリアリティやエンターテインメント,産業や医療においても活用が広がっている.しかし,投影装置が大がかりであり,コストも莫大になることが問題視されている.そこで本研究では,凸面鏡と数台のプロジェクタを組み合わせることで,室内全域に映像を投影できるシステムの開発を行っている.凸面鏡により映像は広視野領域に拡大され,また被写界深度も深くなることから,投影面までの距離が投影場所によって様々な値となる室内環境での投影には適した構成となっている.本システムでは,4台のフルハイビジョンプロジェクタを用いることで,6m×3m程度の小さな部屋一面に映像を映し出すことを可能にしている.総務省SCOPEプロジェクトの一環として開発を進めており,本年度は,室内での幾何歪み補正とそれをサポートするアプリケーションの開発を中心に実施した.

本研究では,凸面鏡よりもさらに簡易なシステム構成にて,狭い部屋の一部を映像投影環境とするためのシステムの実現を目指している.室内壁面への投影を考えた場合,前面投影が基本となるが,投影映像が観察者と干渉してしまい,影が生じることが問題となる.そこで本研究では,1台のプロジェクタからの投影光を二つのミラーで分割し,それをさらに2次反射させることで,観察者のスペースを十分確保しつつ,視野を覆い尽くす広域な映像投影を実現する.左の写真では2台のプロジェクタを用いて横100°、縦45°の映像投影を実現した.(宇都宮大学、東京工業大学との共同研究)

我々の提案している疑似広視野化手法では,既存映像コンテンツの過去フレーム映像を使って,見えない周辺領域の映像をリアルタイムに作り出すことが可能である.しかし,これまでの実装では,直進しているコンテンツのみに限定されていた.そこで本研究では,視点の並進3自由度・回転3自由度の推定を行うことで,多用な視点移動を含んだ映像に対しても適用可能になった.また,実際のゲームコンテンツや,ビデオカメラで撮影した風景映像などを広視野化し,その実用性を示すことができた.

疑似広視野化によって得られた映像は体験するものを楽しませ,映像コンテンツ内に没入させる効果があることが直感的に知られている.本研究では,その疑似広視野化による没入感への影響について評価実験を行った.実験対象としては,ハイビジョンカメラで撮影した街中を走る車載映像,CGで作成した廊下を歩く映像,インタラクティブなゲーム,の3種類を用意し,これを没入型ディスプレイD-visionを用いて広視野提示を行った.被験者は,単純拡大・ビデオモザイキング・疑似広視野化の3種類の手法によって広視野化された映像を交互に体験し,没入感・奥行き感・広がり感・迫力・見やすさ・違和感・開放感・疲れ・印象深さ・好感・楽しさ・スピード感の12語について7段階評価を行った.その結果,疑似広視野化が没入感に対して大きな影響を与えていることが明らかになった.また,映像品質やフレームレート,映像中の動きなどのコンテンツに依存した要素にも影響をうけることが確認できた.(宇都宮大学・東京工業大学との共同研究)

室内等の非スクリーンに映像を投影する場合、下地の色の影響を打ち消すための色・輝度補正が重要となるが、下地の色を打ち消すために光量が使われるため、投影映像の輝度が低下してしまうことが避けられない.そのため、人間の知覚特性を利用してより明るい投影映像を得る手法が研究されている.本研究では、動いている物体に対する輝度に対する感度しきい値が低下することから、映像中の動いている部分の輝度の白飛び黒つぶれを積極的に許容することで、映像全体のダイナミックレンジを拡張する手法を提案した.(東京工業大学との共同研究)