2009年度は,室内環境を本格的に映像投影環境とするための研究を中心に行った.前年度までに構築した凸面鏡システムや輝度補正技術を基礎とし,より実践的な手法の開発に取り組んだ.新たな試みとして電動雲台を用いた動くプロジェクタや,任意形状面へのリアルタイムレンダリング手法による効果的な映像投影環境の実現が可能になった.

任意形状面へのリアルタイムレンダリング
影のできない前面投影システム
室内空間投影のための幾何補正
事前計測を必要としない動的輝度補正
視覚特性を利用した広視野・高解像度映像投影

○共同研究(宇都宮大学,東京海洋大学)
5面映像投影示による高臨場感提示
多重投影に基づいた高輝度かつ高階調映像提示


2008年度 研究成果一覧
2007年度以前の研究成果一覧

電通大以外での研究活動.(佐藤研@東工大中嶋研@東工大


 バーチャルリアリティにおいて,広視野な映像提示を行うディスプレイを構築する際に,スクリーンに対して斜めに映像を投影したり,平面ではないスクリーン面に投影したりする場合が多く存在する.そのような場合に正しい映像投影を行うためには,幾何学的な歪みを補正する処理が必須となるが,従来の手法では処理速度や投影解像度の低下が問題となることがある.
 そこで本研究では,幾何補正のためのリサンプリング時に過不足のない情報を提供可能な「View-frustumの最適化」を行うことで,任意形状平面に対する高速かつ高精度なレンダリングを実現する手法を提案する.任意平面への投影に対応した幾何補正を実現しつつ,従来よく使われているTwo-Pass Renderingを用いた際に発生する解像度低下を改善し,かつ描画速度も従来手法を上回る結果を実現した.[Top]

 本研究では,プロジェクタの投影領域を重ねあわせ,それらを出力輝度一定のままシームレスに切り替えられるようにすることで.一般的に用いられている前面投影環境においても,体験者が映像の前で自由な位置から体験可能なシステムを実現する.ディジタルカメラのRAW画像からプロジェクタの応答関数を求め,モーションキャプチャから獲得した体験者の視点位置に応じて出力プロジェクタを切り替えることで,体験者の影の発生を抑制する.現状ではプロジェクタからの黒レベル出力(black-offset)による影が確認できるが,これを考慮した応答関数の構築や,物理的なblack-offsetカットによってさらなるシームレスな投影環境の構築が可能になる.[Top]

 室内の壁面を使って広視野投影環境を構築する場合,映像を歪みなく投影するための幾何補正が必要となる.その際,パターン光投影を利用した幾何対応取得が広く用いられているが,室内のような環境では壁面に囲まれているために強い間接反射が発生し,パターン光を正確に認識することが困難である.そこで本研究では,間接反射光の影響を低減するためのパターン分割投影法を提案し,相補パターン投影と組み合わせることで,室内環境においても正確な幾何対応取得を可能にした.[Top]

 近年では様々な環境においてプロジェクタが利用され,また持ち運び可能な携帯プロジェクタの登場により,さらなる多様化が進んでいる.本研究では,プロジェクタの投影光が投影面や環境から受ける影響を自動的に修正し,本来望んだ映像を得ることのできる動的輝度補正手法を提案する.これまでの手法では多くの事前計測が必要であったが,本手法ではそれを必要とすることなく,高速かつ安定した輝度補正を実現することが可能となる.左の動画では,環境の変化の一例として人間が投影面の前を横切る状況を再現している.これは投影面の反射特性が変化したことに相当し,提案手法ではこの変化に即時に対応して輝度補正を行い,正しい映像の投影を可能にする.その結果,映像の前に立った人間が消えてしまったかのような不思議な効果を生み出している.[Top]

 高精細な広視野システムを構築する場合,数多くのプロジェクタが必要となってシステムが大規模化したり,広視野化によって十分な解像度が得られなかったりすることが問題となる.本研究では,電動雲台によって姿勢制御可能なプロジェクタを用いることで,人間の視覚特性に着目した広視野・高解像度映像投影システムを提案する.既存の広視野投影システムを用いて比較的低解像度映像が広域に提示されている状況を前提とし,観察者が注視する領域をモーションキャプチャで捉え,局所的に明るく高解像度な映像を提示することで,観察者は全視野領域に高解像度な映像が提示されているような感覚を得ることとなる.本研究では,観察者の視線方向に電動雲台を安定して追従さえるための制御モデルおよび遅延補償モデルの導入を行っている.[Top]

 映像の鑑賞者の周囲をスクリーンで覆うことで,高い没入感を与える没入型ディスプレイと呼ばれる映像提示装置が提案されている.しかし,これらは高価で大掛かりなため,個人で利用することは不可能に近い.そこで本研究では,室内の壁面をスクリーンとし,鑑賞者の正面と上下左右を囲むようにプロジェクタを用いて映像を投影することで,5面映像提示環境を構築する.そして,様々な映像を投影し,鑑賞者へ高い没入感を与えられるかを主観評価実験により検討する.
(宇都宮大学・東京海洋大学との共同研究)[Top]

 近年,プロジェクタの小型化や低価格化などにより,身近でプロジェクタが利用される機会が多くなっている.また,映画やゲームなどの映像視聴において,高輝度かつ高階調な画像を提示可能なHDR (High Dynamic Range) 表示が注目を集めている.
 本研究では,複数の家庭用プロジェクタを用いた重畳投影に基づいて,高階調性と高輝度性を兼ね備えたHDR表示装置を構築する. 実験では4台のプロジェクタを重ねて投影し,4倍の輝度と階調を実現した.また,応答関数を統合して制御することで,4台のプロジェクタを1台と見なしての映像提示を可能にした.(宇都宮大学との共同研究)[Top]