2010年度は,立体映像提示に関する研究に多く取り組みました.また,これまで継続している輝度補正技術を応用した着せ替えシステムの提案や,幾何補正技術を用いて実環境を映像空間へと変貌させる実践的な研究も行うことができました.

実環境におけるバーチャル着せ替えシステム
霧を用いた空中立体像提示システム
3次元計測技術を用いた空間立体ディスプレイ化手法
全周囲映像提示環境の実践的構築
空間演出機能を備えたテーブルトップインタフェース
オプティカルフローを用いた既存映像からの立体映像生成

○共同研究(宇都宮大学・佐藤研究室)
プロジェクタによる多重投影に基づいたHDR表示
室内空間における魚眼レンズを用いた没入型映像投影
動的環境下における映像投影を目的とした輝度補正


2009年度 研究成果一覧
2008年度 研究成果一覧
2007年度以前の研究成果一覧

電通大以外での研究活動.(佐藤研@東工大中嶋研@東工大

 


 衣服というのは日常用品である事に加えて,生活を豊かにしてくれるものとして欠かすことのできない存在です.様々な衣装を着てみんなに見てもらいたい!という欲求は古くから存在します.そんな着せ替えを,手軽に自由に実現してしまうバーチャル着せ替えシステムを開発しました.
このシステムは,カメラとプロジェクタ、それを制御するPCによって構成されています.カメラの前に立った人の姿を認識し,衣服の領域を自動的に判別し,そこに映像を投影します.もちろん,衣服の上に映像を投影すると正しい色にならないため,輝度補正技術によって衣服の反射特性および応答特性を計測し,それに基づいた色補正を行って投影します.その結果,衣服の色に影響されずに,映像によって衣服の色や模様を上書きすることが可能になります.また,ユーザが動いても,それに追従して着せ替えが実現されるため,まるで本当に着せ替えをしているような体験が可能です.[Top]

【文献】中村卓磨,橋本直己,“実世界におけるバーチャル着せ替えシステム”,映像情報メディア学会技術報告 ME2011-23,Vol.35,No.8,pp.89-92 (2011).

 表示する映像の形状に合わせた形状の霧スクリーンを作り出して,そこに映像を映すことで,立体感を伴った空間立体像を提示可能にするディスプレイ装置を開発しました.超音波震動子によって霧化された霧を,電動ファンによって特殊な吹き出し口を通すことで薄いスクリーンを形成します.さらにソレノイドを制御することで吹き出し口の開閉を制御して,投影する映像の形に応じた形状の霧スクリーンを実現しています.[Top]

 本研究では,日常空間に存在している,空間を充填する構造を利用して空間立体ディスプレイを作り出す技術を提案しています.“空間を充填する”というのは,例えば右図のように意図が張り巡らされたような空間をいいます.これは一見特殊な状況のように思えますが,例えば机の脚や傘立て,木々の枝,人混みなど,身近に多数存在しています.また,ビニールテープなどを天井から多数垂らすだけで,簡単に空間を充填することも可能です.そういった空間の3次情報を,カメラとプロジェクタを利用した形状計測技術によって獲得して,空間立体ディスプレイ”化”を実現することを目指しています.[Top]

 橋本研究室で開発した歪みを補正する輝度補正技術と,色を補正する輝度補正技術を組み合わせて,実在する室内空間を全周囲映像提示環境に変貌させることを実践する研究として,チャペルの天井のディスプレイ化にチャレンジしました.9台のプロジェクタを用いて,天井および側壁を映像で覆い尽くし,なおかつ,天井に設置されているシャンデリアによって生じる影の打ち消しも行いました.天井面は複雑な形状をしているため,そのまま映像を投影すると大きく歪んでしまいます.そこで,魚眼レンズを装着したカメラを基準として構造化パターン光投影を行い,幾何学的な歪み補正を行っています.さらに,投影像の重なっている部分が明るくなりすぎてしまうため,同じくカメラからの輝度観測画像に基づいて,明るさの補正も行っています.[Top]

 テーブルトップを使ったインタフェースが近年盛んに研究されています.この研究では,日常生活において多用されているテーブルに映像投影機能とインタラクション機能を追加することで,空間演出を実現するシステムの実現を目指しました.魚眼レンズを組み合わせたプロジェクタを使って,テーブル上面と側面の広域に映像を投影しています.さらに,テーブルクロスとテーブル天板の間に反射率変化を誘発する素材を挟み込むことで,テーブル上面に載せた物体をテーブル下の赤外カメラから容易に認識できるような工夫を盛り込んであります.これによって,テーブル上に物を置いたり動かしたりする動作に合わせて,さりげない,または派手な映像演出がテーブル上で繰り広げられます.[Top]

【文献】鈴木 翔,橋本直己,“映像演出効果を備えたテーブルトップインタフェース”,映像情報メディア学会 2010年冬季大会講演予稿集,3-11 (2010).

 近年,立体視対応TV等の3D映像機器が巷に普及しはじめていますが,それに対応した映像コンテンツを探すのに苦労してしまいます.そこでこの研究では,従来から使われてきた2D映像を3D映像に変換する技術を提案しています.映像中の特徴点のオプティカルフローにを用いて映像領域を分割して,これを元にして直方体を近似した奥行きモデルを仮定します.オプティカルフロー情報をさらに分析することで,近似した形状をより細かく修正して制度を高めていきます.最後に,元の映像をテクスチャマッピングすることで立体映像を生成します.[Top]

 近年,ディスプレイ装置におけるHDR表示の研究が盛んに行われています.HDR表示とは,広い輝度範囲と大きな階調数を持つ画像表示であり,プロジェクタのHDR表示では複数のプロジェクタを用いた多重投影によるHDR表示が試みられています.複数のプロジェクタを用いて多重投影を行う場合,重ね合わせた投影面の階調変化が滑らかになるようなHDR表示手法を考える必要があります.そこで本研究では,プロジェクタを4台用いて多重投影を行い,各プロジェクタの応答特性を合成し1台のHDR表示装置を仮想することで,滑らかな階調変化を実現するHDR表示手法を提案します.
(宇都宮大学・佐藤研究室との共同研究,2011年ITEメディア工学研究会・優秀発表賞受賞)[Top]

 鑑賞者の周囲のスクリーンに映像を投影することで,高い没入感を与える没入型ディスプレイという映像提示技術が研究されています.しかし,これらの装置は大掛かりで高価であり,普及に際しての大きな足かせとなっています.そこで本研究では,一般家庭でも利用できる小型装置をよる没入型映像提示の実現を目的としています.本装置では,プロジェクタに魚眼レンズを設置することで投影面を拡大します.そして,室内の壁面をスクリーンとして利用し,鑑賞者の正面と上下左右の壁面に映像を投影することで,没入型映像を実現します.(宇都宮大学・佐藤研究室との共同研究)[Top]

 近年,プロジェクタの小型化や低価格化などにより,プロジェクタの利用が一般的になってきている.その中で,専用スクリーン以外に映像を投影する場合,投影面の模様などが影響することが問題となっている.本研究では,投影面が動的に変化する環境下において,提示映像から投影面の影響を軽減するアルゴリズムを検討する.
(宇都宮大学・佐藤研究室との共同研究)[Top]