2011年度は,輝度補正や幾何補正といった映像補正技術に始まり,インタラクティブなバルーンディスプレイや粘土を使ったモデリングシステム,自律補正が可能なSmartPhone&Projectorシステム,インタラクティブなプロジェクションマッピングなど,多彩な研究を行うことが出来ました.また,IEICE-MVE研究会およびITE-ME研究会において高い評価を得ることが出来ました.

○修士論文
風を用いた力覚および温度感覚提示可能な実在感ディスプレイの開発
Shadow-Less Projectionを用いた室内環境での没入型仮想環境の構築
室内における全周囲映像投影のための幾何補正手法に関する研究
環境変化に適応する映像投影手法“Adaptive Image Projection”に関する研究

○卒業論文
インタラクティブな接触変化に対応したバルーン型ディスプレイの開発
高速度カメラを用いた動的物体の追跡に関する検討
可視光カメラ,及び距離画像センサによる自己位置推定手法の比較,検討
粘土を用いた直感的3Dモデリングシステムの構築
スマートフォンを用いた広視野投影システムの提案
車載カメラ映像の共有による前景視界補助システム
超臨場感を実現するインタラクティブプロジェクションマッピング

○共同研究(宇都宮大学・佐藤研究室)
認識可能な階調数に着目したHDR表示に適する応答特性の検討
室内空間における魚眼レンズを用いた没入型映像投影(仮)


2010年度 研究成果一覧
2009年度 研究成果一覧
2008年度 研究成果一覧
2007年度以前の研究成果一覧

電通大以外での研究活動.(佐藤研@東工大中嶋研@東工大

 


 より高い臨場案を提示するために,近年では複数の感覚への刺激提示を組み合わせる方法が研究されています.本研究では,両眼立体視による視覚情報提示に加えて,風を用いた触覚および温度感覚提示を実現する実在感ディスプレイを開発しました.指先で立体映像に触れると,下のファンから温度制御された風が提示され,物体に触れた触覚と,その物体から伝えられる温度感覚を同時に提示することで,高い臨場感を実現します.風の温度制御にはペルチェ素子を用いていて,暖かい風と冷たい風を,映像コンテンツに合わせて提示することが出来ます.[Top]

【文献】田中亮平,橋本直己,“風を用いた力覚および温度感覚による高臨場感提示に関する一検討”,第20回サイバーワールド研究会,pp.33-38 (2012).

 プロジェクタ装置の最大の弱点の一つである”影”を生じさせないプロジェクション環境を実現しました.技術要素としては,1)影を生じさせない投影領域制御,2)応答特性関数を用いた高精度なブレンディング技術,3)視点移動によって変化する応答特性の動的な補間,の3つによって成り立っています.左図の左側は通常の投影のため,体験者の影が確認できますが,右側は提案手法が導入されているため,影が消えていることがわかります.影領域のみを抽出して補間する従来手法よりも,補間精度が高く,違和感のない連続した映像提示が可能である点が特徴です.[Top]

 VRでは大画面映像が多用されますが,それを映し出す専用の空間を確保することが極めて困難です.そこで本研究では,室内環境において大画面映像投影を可能にする歪み補正技術を提案します.プロジェクタから投影されるレジストレーション用のグリッドサイズには上限があるため,見た目のグリッドよりも1段階細かなサブグリッドを補間することで,凹凸を含んだ室内壁面を,あたかも平らなスクリーンのように補正します.また,間接反射光低減手法も組み込むことで,実際の室内環境における効率的かつ高精度な歪み補正を実現します.[Top]

 近年,プロジェクタの利用方法が多様化しており,様々な環境で使われるようになってきています.そのため,一般的な室内環境においても,動的な環境変化に適応して補正が可能な手法が強く求められています.本研究では,投影面の反射率変化と間接反射光の影響を考慮した応答特性モデルの提案と,RLSアルゴリズムを用いた高速な推定処理を用いることで,実際の環境における動的変化に対応可能な映像補正手法を実現しました.[Top]

【文献】渡邊暁,橋本直己,“環境に適応する映像投影手法”Adaptive Image Projection“に関する研究”,電子情報通信学会技術研究報告,Vol.111,No.479,pp.199-204 (2012).

 iPhone/iPadに代表されるように,ディスプレイを触って操作するインタフェースが普及しています.本研究では,ディスプレイとの多様なインタラクションを実現することで,新たな人とディスプレイとの関係実現を目指しています.そこで内部に映像投影を行った空気注入型のバルーンを用いて,バルーン部への接触を検出することで,バルーン表面を触るだけでなく,押したり叩いたりするインタラクションを可能にするシステムを構築した.接触検出には,バルーン内部に照射した赤外線の反射を利用し,背景差分に基づく画像処理によって高速に検出している.[Top]

【文献】石田佐句,橋本直己,“インタラクティブな接触変化に対応したバルーン型ディスプレイの開発”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.36,No.8,pp.101-104 (2012).

 プロジェクタ映像を投影するプロジェクションマッピングでは,一般的には対象が静止していることが求められます.これは,対象物体の位置検出が困難であることに加えて,カメラやプロジェクタ装置には,思った以上に大きな処理遅延が含まれることに起因しています.そこで本研究では,高速度カメラによるハードウェア的な遅延の低減と,パーティクルフィルタによる対象物体の動き予測を組み合わせることで,動物体へのより正確なプロジェクションマッピングを目指します.[Top]

 近年,カメラを用いた位置検出処理が多用されており,カメラの外部パラメータおよび内部パラメータ推定技術が不可欠となっています.そこで,一般的にカメラを用いて行われているZhangの手法によるカメラキャリブレーションと,Microsoft Kinectの深度センサを使ったICPアルゴリズムによる自己位置推定結果を比較することで,双方の有効性について検討を行いました.[Top]

 

 3Dモデルを使ったアプリケーションが近年増加しており,さらには個人でも3Dモデルを作成したいという需要が増加しています.すでに世の中には便利なモデリングツールが多数存在しますが,多機能・高機能である反面,使い方を習得するまでに多くの時間が必要となり,途中で挫折してしまう人も少なくありません.そこで,本研究では,誰でも簡単に行える粘土細工とMicrosoft Kinectを組み合わせることで,粘土で作った物体が即座にコンピュータ上に取り込まれるシステムを開発しました.実際の筆を使ってのペインティングや,その結果を粘土上に投影することで反映することも可能になっています.[Top]

【文献】須永知樹,橋本直己,“粘土を用いた直感的3Dモデリングシステムの構築”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.36,No.8,pp.33-36 (2012).

 体験者を映像で包み込む没入型ディスプレイは,研究段階から普及の段階へと移行し,産業やエンターテインメント分野において多く用いられています.しかし,大型映像を作り出すために複数台用いられるプロジェクタを設置・調整する作業は一般的に困難で,プロジェクタなどのハードウェアが安価で入手しやすくなった反面,手軽に没入型ディスプレイを実現することは依然として困難とされています.そこで,高機能化・小型化したスマートフォンをエンジンとして,プロジェクタ自身に自律的な映像調整機能を組み込むことで,プロジェクタを並べておくだけで,連続した一連の大型映像を提示可能とするシステムを開発しました.[Top]

【文献】福吉広涼,橋本直己,“スマートフォンを用いた広視野投影システムの提案”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.36,No.8,pp.97-100 (2012).

 自動車を安全に運転するためには,運転者からの死角の低減が必須と言われています.本研究では,すでに普及している車載カメラの映像を,車車間通信ネットワークを介して共有し,運転者から死角となる領域の視野情報を補完することで,安全な運転を補助する前景視界補助システムを開発しています.他車の車載カメラから得られた,自分からは見えない領域の映像は,視界を遮蔽している物体があたかも透過しているかのように提示され,実物体と透過映像の効果的提示方法についても検討しています.[Top]

【文献】鈴木光一朗,橋本直己,“車載カメラ映像の共有による前景視界補助システム”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.36,No.8,pp.29-32 (2012).

 本研究では,実物体上に映像投影を行うプロジェクションマッピング技術にインタラクティブ性を加えることで,より高い映像選出効果の実現を目指しています.事前に生成された高品質な動画像表現と,Kinectによって取得されるユーザの動きをリンクさせることで,プロジェクションマッピングの持つリアリティにさらに磨きをかけ,高い臨場感を実現します.試作システムとして,壁にボールをぶつけて破壊するアプリケーションを作成し,その効果を実証しました.2012年2月に行われた映像情報メディア学会・メディア工学研究会にて優秀発表賞を獲得しました.[Top]

【文献】櫻井淳一,橋本直己,“超臨場感を実現するインタラクティブプロジェクションマッピング”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.36,No.8,pp.105-108 (2012).

 本研究では,HDR表示に適する応答特性の1つの指標として階調数をより認識可能な応答特性を求めるため,従来の応答特性であるガンマ値2.2と,人間の視覚特性に基づいて新たに提案したガンマ値3.33の2種類の応答特性における認識可能な階調数の測定を行いました.本研究で得られた応答特性を用いることで,最大で726階調表示を可能にしました(宇都宮大学・佐藤研究室との共同研究)[Top]

【文献】田中利明,井上未知美,佐藤美恵,春日正男,石川智治,阿山みよし,橋本直己,“認識可能な階調数に着目したHDR表示に適応する応答特性の検討”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.36,No.8,pp.25-28 (2012).

 準備中
(宇都宮大学・佐藤研究室との共同研究)[Top]

【文献】川辺泰弘,松嶋一浩,佐藤美恵,春日正男,橋本直己,“魚眼レンズを用いた全周囲映像提示に関する検討”,映像情報メディア学会技術報告,Vol.36,No.8,pp.21-24 (2012).